《空手バカ一代・中編》

Vol.27 2001/09/30

 

エグザスでやってる「極真会館」、まったく空手の経験のないオレがいきなり入会 (入門か?)するのは無謀なのか?

そのへんはまず見学してみて決めよう。
興味しんしんではあるけれどやっぱり何やってるかわかんないからエグザスに行く足取りは重い。

エグザスのカウンターに着いてしまった。
「あの〜。極真会館の見学がしたいんですけど〜」
受付のお姉さんに尋ねてみながら内心では「もうやってなければいいのに・・」などと不謹慎な思いが心をかすめてしまう。 まるで足の遅い子供が「運動会が雨で中止になればいいのに」と運動会前日に念じているような感じ、まさに往生際が悪い。
「極真会館ですか?あ、そこの廊下の突き当たりの道場でやってますから見学なさってください」
やってますか、やっぱり。
でもあれだよ、ここってエグザスの中だよな。 そしたらいくら極真会館だからってさ、初心者向けのソフトな社会人コースって感じでやってるんじゃなかろうか?
そうだよ、仕事帰りのサラリーマンが「ちょっとひと汗」って感じで気軽にカラテでストレス解消だよ。
ひょっとしたらボディーコンバットみたいにポップな音楽に合わせて型の練習をして いるかもしれない
「右正拳突き〜ハイ、ワ〜〜ン、トゥ〜〜、グ〜〜〜〜ド」みたいなかんじで。

いろいろ考えながら長い廊下を進んでいくと奥の方から物音が・・・
ポップな音楽だ ろうか?
だんだん音がはっきり聞こえてくる・・・

「ゼイリャ〜〜〜!!」「オシャ〜〜〜!!」「ソウリャ〜〜!!」

道場で待っていたのはポップな音楽どころか、熊殺しを目指す空手マン達のドス効き まくりの気合だった。
気合だけではない、2人一組でキックミットをズッバンズッバン蹴る稽古の真っ最中 で全員汗だく、テント地みたいにゴッツイ空手着が雨に打たれたみたいにびしょび しょになってる。
ダイエットを目指すオレにはそのあたりのチェック(汗をかく量) は欠かせない、汗の量は充分、けどいくらなんでもやりすぎだ。
その間にも先生の「ソリャ気合入れて〜〜!!」と厳しい声が。

どうにも完全に本気です、皆さん。
「選択を誤ったかもしれない・・・」 思うが早いかスルスルと来た道を帰ろうとすると先生と目が合ってしまった、マズイ。
「あ、見学の方ですか。中でゆっくり見ていってください。」
やさしい、けど有無を言わさぬ声で先生に促されて道場に足を踏み入れた。

熱いわ道場、皆さんの熱気も熱いけど実際に室温も高い。
ダイエットのため、汗をかくためにはもってこいの環境だ。
とりあえず端っこのほうで正座して様子を見てみた。
う〜〜〜ん、間近で見れば見るほどハードだな。
こう何ていうんだろう、エアロバイクだとするもサボるも自分自身の判断。
けどここは生徒さん皆なならんで「ゼイリャ〜〜!!」と気合一発キックミットを蹴 りこんで、それに絶妙のタイミングで先生から「もっと気合入れて〜〜!!」と喝が入る。
まさにサボることが許されないスパルタン極まりない環境だ。
ダイエットを目指すオレ、そして根性のないオレには実はこの「サボることが許されない環境」ってのが一番大切なのかもしれない。
女性もいるぞ、カワイイ普通〜な感じの女性が。
細い体で一生懸命キックミットを蹴 りこんでる。
彼女達にできて俺にできないって話はないだろう。

なんかやる気が出ちゃったな〜オレ。
これだよ、俺が求めていた運動は。
最初は気合の声に圧倒されちゃったけど、やってる内容はもの凄〜くハードなエアロ ビクス(有酸素運動)なわけだしダイエットにはまさにもってこいだ。ミット蹴るぶんにはあんましケガとかもしそうにないしな。
「ハイじゃあ5分間休憩します、各人水分を採ってください。」
ハードな運動の合間に水分を採って新陳代謝をよくする、理論的にも文句ナシ。

休憩の間に生徒さんたちを観察してみると白帯が全体の3分の1ぐらい、つまりオレみたいな初心者が3分の1ぐらいいる。(もちろんオレより随分強そうだけど)
あんまし全体のレベルが高いと足引っ張りそうでヤだけどこれなら何とかいけそうな 気がする。
皆さんの雰囲気も厳しい中にもリラックスしたゆとりみたいなのがあって、こっちも良い感じ。
「きのう街歩いてたらムカついたオヤジがいたからボコッテやったぜ〜〜」みたいなならず者的な人は一人もいない。
むしろそんな事いってたら「ちょっとコッチ来い」と呼び出されて死ぬまで殴られそうな緊迫感はある。
極真の道場訓「吾々は礼節を重んじ 長上を敬し粗暴の振る舞いを慎むこと」をそのまま実践してる感じで精神的にも鍛えられそう。
30も半ばを過ぎて精神修行ってのは予想してなかったけど、それはそれでやってみたい気はする。
なんかよくニューヨークとかに住んでるアメリカ人なんかが「ゼンスピリット」とか言って座禅組んだりしてるじゃん、あんな感じで精神を鍛えるのも良いかも。
そういえば今年復活するマイケルジョーダンもブルス時代のコーチのフィルジャクソ ンも「ゼンスピリット」を学んでたよね。
そう考えると精神修行も悪くない、って言うかかなり良い感じでやってみたい。

5分間の休憩が終わって先生が中央に出てきた。
「それではライトスパーはじめます。」
スパー?
スパーリングのことか?
フリーで?
とは言っても本気で殴りあったりはしないだろう、皆さん明日の仕事がありそうだし。
それに先生も「ライトスパー」って言ってるし。
「それでは2分間、はじめ〜〜!!」

「ドウリャ〜〜〜!!」
「セイヤ〜〜!!」

うっわ〜、うっわ〜。皆さん本気だわ。

先生の「ライト」の指示は何処へやら、ローキックなんかバシバシ蹴りこんでる。
特に黒帯の皆さん方、これで怪我しないのが不思議なくらいの本気っぷり。パンチが 当たったときの「ズドン!」って音がココまで聞こえてくる。
でもまあ黒帯は黒帯と、白帯は白帯とやってるみたいで白帯が黒帯とやる機会はないみたいだ。
そりゃそうだよな、死んじゃうよ黒帯の人なんかとやったら。
白帯同士でやってるところはあれだよね、蹴るのもあんまし思いっきり蹴りこんでな いみたいでなんか素人っぽい。入会したらあそこに入るのか〜。
「ハイやめて〜〜。お互い礼ッ!」
「オッスありがとうございました。」
「オッスありがとうございました。」
サワヤカじゃないか、あれだけ本気で殴り合ってた人たちが戦い済んでノーサイド。
礼をしたら稽古をつけてくれた相手に感謝する。精神修行度数さらにアップだ。

「ハイじゃあ一人ずつずれて〜。」

?????
ずれたら白帯と黒帯と対戦することになるんじゃないのでしょうか先生?

あっら〜〜〜〜ずれてるよ、皆さん。
ちょうどフォークダンスで一人ずつパートナーがずれる感じ。
フォークダンスなら一人ずつずれて時には好きな女の子の手が握れてドキドキしたりするもんだけど、極真会館は一人ずつずれて黒帯さんとスパーリング(ひえ〜〜 !)。
「ハイはじめ〜〜!」
さすがに黒帯さんはかなりセーブしている感じ、手数をあまり出さないしどちらかといえば好きに打たせているみたいだ。
でも時々はカウンターみたいな感じでパンチを打ち込んだりしてる。
「ドスッ!」
うわ〜〜痛そ〜。

でもあれだよ、オレの心は決まったよ。
どうせやるならボディーコンバットより極真会館だ。
運動量が桁違いでダイエットには文句ナシ。
それになんか「強くなりたい」って男の子的感覚もある。
それにこの精神性も学んでみたいと感じてしまった。
毎日ただ仕事に追われてるだけだけど、時には「オッスありがとうございました!」 な感謝の気持ちがある方がオレは好きだ。

決めた。極真会館に入ろう。
先生入会させてください。

「あ、はい。そうしたら胴着のサイズを選んだりしないといけないので、一度本部のほうに来てもらえますか。」

「本部・・ですか?」

以下次号。
(もと店長 ケンゾウ)

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